よくたのんだぞ。何を、ぼんやりしているのさ。此の頃なんだか眠たそうな顔ばかりしているようだが、思春期は、眠いものと見えるね。あたしにも苦しい事があるのよと思う宵《よい》にもぐうぐうと寝るという小唄《こうた》があるけど、そっくりお前みたいだ。あんまり居眠りばかりしてないで、たまにはフランスの兄さんに、音信をしろよ。」
オフ。「すまいとばし思うて?」
レヤ。「なんだい、それあ。へんな言葉だ。いやになるね。」
オフ。「だって、坪内さまが、――」
レヤ。「ああ、そうか。坪内さんも、東洋一の大学者だが、少し言葉に凝り過ぎる。すまいとばし思うて? とは、ひどいなあ。媚《こ》びてるよ。いやいや、坪内さんのせいだけじゃない。お前自身が、このごろ少しいやらしくなっているのだ。気をつけなさい。兄さんには、なんでもわかる。口紅を、そんなに赤く塗ったりして、げびてるじゃないか。不潔だ。なんだい、いやに、なまめきやがって。」
オフ。「ごめんなさい。」
レヤ。「ちぇっ! すぐ泣きやがる。兄さんには、なんでも、全部わかっているのだぞ。いままで、わざと知らぬ振りしていたのだが、それでも、遠まわしにそれとな
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