うに大時代な、歌舞伎《かぶき》調で飜訳《ほんやく》せざるを得ないのではないかという気もしているのである。
沙翁の「ハムレット」を読むと、やはり天才の巨腕を感ずる。情熱の火柱が太いのである。登場人物の足音が大きいのである。なかなかのものだと思った。この「新ハムレット」などは、かすかな室内楽に過ぎない。
なおまた、作中第七節、朗読劇の台本は、クリスチナ・ロセチの「時と亡霊」を、作者が少しあくどく潤色してつくり上げた。ロセチの霊にも、お詫《わ》びしなければならぬ。
最後に、此の作品の形式は、やや戯曲にも似ているが、作者は、決して戯曲のつもりで書いたのではないという事を、お断りして置きたい。作者は、もとより小説家である。戯曲作法に就《つ》いては、ほとんど知るところが無い。これは、謂《い》わば LESEDRAMA ふうの、小説だと思っていただきたい。
二月、三月、四月、五月。四箇月間かかって、やっと書き上げたわけである。読み返してみると、淋《さび》しい気もする。けれども、これ以上の作品も、いまのところ、書けそうもない。作者の力量が、これだけしか無いのだ。じたばた自己弁解をしてみたところで
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