ます。わしは、その度毎《たびごと》に、どんなに淋しかったか。ハムレット! 顔を挙げなさい。そうして、わしの問いに、はっきり、まじめに答えて下さい。わしは、君に聞きたい事がある。君は、わしを、きらいなのですか? わしは、いまでは君の父です。君は、わしのような父を軽蔑《けいべつ》しているのですか? 憎んでいるのですか? さ、はっきりと答えて下さい。一言でいい。聞かせて下さい。」
 ハム。「A little more than kin, and less than kind.」
 王。「なんだって? よく聞きとれなかった。ふざけては、いけません。わしは、まじめに尋ねているのです。語呂《ごろ》合せのような、しゃれた答えかたはしないで下さい。人生は、芝居ではないのです。」
 ハム。「はっきり言っている筈です。叔父さん! あなたは、いい叔父さんだったけど、――」
 王。「いやな父だというのですね?」
 ハム。「実感は、いつわれませんからね。」
 王。「いや有難う。よく言ってくれました。そのように、いつでも、はっきり言ってくれるといいのです。真実の言葉に対しては、わしは、決して怒りません。実は、わし
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