て僕に相談してくれた事が一度も無い。大声あげて、僕をどやしつけてくれた事もかつて無い。どうして僕を、そんなに、いやがるのだろう。僕は、いつでもあの人たちを愛している。愛して、愛して、愛している。いつでも命をあげるのだ。けれども、あの人たちは僕を避けて、かげでこそこそ僕を批判し、こまったものさ、お坊ちゃんには、等と溜息をついて上品ぶっていやがるのだ。僕には、ちゃんとわかっている。僕は、ひがんでなんかいやしない。僕は、ただ正確なところを知っているだけだ。オフィリヤ、少しは、わかったか。君まで、おとなの仲間入りをして、僕に何やら忠告めいた事を言うとは、情ないぞ。孤独を知りたかったら恋愛せよ、と言った哲学者があったけど、本当だなあ。ああ、僕は、愛情に飢えている。素朴《そぼく》な愛の言葉が欲しい。ハムレット、お前を好きだ! と大声で、きっぱり言ってくれる人がないものか。」
オフ。「いいえ。オフィリヤも、こんどは、なかなか負けませぬ。ハムレットさま、あなたは本当に言いのがれが、お上手です。ああ言えば、こうおっしゃる。しょっていると申し上げると、こんどは逆に、僕ほど、みじめな生きかたをしている男は無いとおっしゃる。本当に、御自分の悪いところが、そんなにはっきり、おわかりなら、ただ、御自分を嘲《あざけ》って、やっつけてばかりいないで、いっそ黙ってその悪いところをお直しになるように努められたらどうかしら。ただ御自分を嘲笑《ちょうしょう》なさっていらっしゃるばかりでは、意味ないわ。ごめんなさい。きっと、あなたは、ひどい見栄坊《みえぼう》なのよ。ほんとうに、困ってしまいます。ハムレットさま、しっかりなさいませ。愛の言葉が欲しい等と、女の子のような甘い事も、これからは、おっしゃらないようにして下さい。みんな、あなたを愛しています。あなたは、少し慾《よく》ばりなのです。ごめんなさい。だって人は、本当に愛して居れば、かえって愛の言葉など、白々しくて言いたくなくなるものでございます。愛している人には、愛しているのだという誇りが少しずつあるものです。黙っていても、いつかは、わかってくれるだろうという、つつましい誇りを持っているものです。それを、あなたは、そのわずかな誇りを踏み躙《にじ》って、無理矢理、口を引き裂いても愛の大声を叫ばせようとしているのです。愛しているのは、恥ずかしい事です。また、愛
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