。君は、さっきからばかにひとりで酒をがぶがぶ飲んでいるが、お勘定《かんじょう》の方は、大丈夫かね。僕にはそんなにお金は無いよ。君は、いったい、いくら持っているんだい。まず自国の財政の見とおしをつけて置かなければ、戦争ヘ不安だ。早く調べて、報告してくれ。」
私は自分の財布《さいふ》を取出し、嚢中《のうちゅう》の金額を調べて外務大臣に報告した。
「よし、大丈夫だ。それだけあるなら大丈夫だ。僕にも、五、六十銭ある。も少し飲もう。たたきは僕はもう、ごめんだ。あっさり、湯豆腐《ゆどうふ》といこう。田舎料理では、まあ、無難なところだろうじゃないか。」しかし、私にはそれもまた彼の義歯となんらかの関係があるのではなかろうかと思われた。
鍋がかわって、さらにお酒が持ち運ばれた。
「よく食い、よく飲むねえ。」と彼は私が豆腐をふうふう吹いて食べながら、また片手ではしきりに独酌で飲むさまを、いまいましそうな眼つきで見て、「君たちは、松島でも、随分飲んだそうじゃないか。こまかい事を聞くようだがね、その勘定は誰が払った。だいじな事だ。」語調を改めてそう言った。私は箸《はし》を置いて答えた。
「半分ずつにしまし
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