日学生の、まあ、総本山とでもいうような格らしく、学校の規模も大きく設備もととのい、教師も学生もまじめなほうであったが、それでも、自分は日一日と浮かぬ気持になって行くのを、どうする事も出来なかった。一つには、あなたがさっき言ったように、おなじ羽色の烏《からす》が数百羽集ると猥雑《わいざつ》に見えて来るので同類たがいに顰蹙《ひんしゅく》し合うに到る、という可笑《おか》しい心理に依るのかも知れないが、自分もやはり清国留学生、いわば支那から特に選ばれて派遣されて来た秀才というような誇りを持っていたいと努力してみるものの、どうも、その、選ばれた秀才が多すぎて、東京中いたるところに徘徊《はいかい》しているので、拍子抜けのする気分にならざるを得ないのである。春になれば、上野公園の桜が万朶《ばんだ》の花をひらいて、確かにくれないの軽雲の如く見えたが、しかし花の下には、きまってその選ばれた秀才たちの一団が寝そべって談笑しているので、自分はその桜花|爛漫《らんまん》を落ちついた気持で鑑賞することが出来なくなってしまうのである。その秀才たちは、辮髪《べんぱつ》を頭のてっぺんにぐるぐる巻にして、その上に制帽を
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