言えない事もない状態であったのである。
「六十番か。」先生には、その六十番も気に入らぬ様子で、「あんまり、結構な成績でもないやないか。もっと勉強しなけりゃ、いかんなあ。いったい前学年の君たちの解剖学は、不出来やった。解剖学は医学の基礎やから、もっと、みっちりやって置かないと、後悔する時がありますよ。お互い怠《なま》けているから、こんどのようなそんな阿呆《あほ》らしい問題が起る。互いに励まし合って勉強して居れば[#「ば」は底本では「は」]、誤解も嫉妬《しっと》も起るものじゃない。和というのは、決して消極的なものではないのです。発して皆、節に中《あた》る、之《これ》を和と謂《い》う、と中庸にもあったやろ。天地躍動の姿です。きりりとしぼって、」と先生は弓を満月の如くひきしぼる手振りをして見せて、「ひょうと射た矢があやまたず的のまんまん中に当って、すぽんと明快な音がする、あの感じ、あれが、和やな。発して皆、節にあたる。この、発して、を忘れてはいかん。勉強するんだね。和を以《もっ》て貴《とうと》しと為《な》す、というお言葉もあるが、和というのは、ただ仲よく遊ぶという意味のものでは無い。互いに励ま
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