四孝は、落語にされて、これは笑いの種になっています。」
「いや、どうも、」と私は内心、恐悦《きょうえつ》の念禁じ難く、「日本人は口が悪いですからね。べつにお国のそのような教えを軽蔑しているわけではないのですが、どうも辛辣《しんらつ》な嘲笑癖《ちょうしょうへき》があっていけません。」
「いいえ、日本人の悪口は、威勢がいいだけで、むしろ淡泊《たんぱく》です。辛辣というのは当りません。支那には他媽的《タマテイ》という罵言《ばげん》がありますが、これなどが本当の辛辣といっていいでしょう。ひどい言葉なんです。あまりに下劣で、意味は言いたくありませんが、おそらく世界中でこんな致命的な罵言を発明する民族は、他にはありますまい。これだけは世界一です。」
「そのタマテイとかいうのはどんなものだか知りませんけれど、しかし、それだけでなく、支那には何か世界一というような感じのものが、他にもたしかにあるような気がします。これは僕のいわば、まあ、勘だけで言っているのですが、お国には、僕たちの想像を絶した偉大な伝統が流れているような気がしてならないのです。あなたは、ずいぶんお国の事を悪く言いますが、しかし、藤野先
前へ
次へ
全198ページ中131ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング