が記されてあって、私は狼狽《ろうばい》し赤面し、かつはこの奇縁に感奮し、少年の如く大いに勢いづいてこの仕事をはじめたというわけである。
しかし、出来栄えはごらんの通りで、小田氏のかずかずの御助力にも、また竹内氏の遠方からの御支持にも、果してお報いできるかどうか、甚《はなは》だ心許《こころもと》ない次第である。
また、この仕事に取りかかるに当って、仙台医専の歴史調査のため、東京帝大の大野博士、東北帝大の広浜、加藤両博士から、それぞれ紹介状をいただき、また仙台河北新報社の好意で、仙台市の歴史を知るために同社秘蔵の貴重な資料は片端から読破できた事は、私のこの仕事に、どんなに役立ったかわからない、私のような、ほとんど無名の作家に、このような便宜が得られたのは、もちろん内閣情報局と文学報国会の力に依る事と思うが、また、見るからにむさくるしい一介の貧書生に、こころよく紹介状をしたためてくれ、また、門外不出の大事な資料を自由に閲覧させて下さった皆さんの御好志のほどは忘れ難い。
なお、最後に、どうしても附け加えさせていただきたいのは、この仕事はあくまでも太宰という日本の一作家の責任に於いて、自由に書きしたためられたもので、情報局も報国会も、私の執筆を拘束《こうそく》するようなややこしい注意など一言もおっしゃらなかったという一事である。しかも、私がこれを書き上げて、お役所に提出して、それがそのまま、一字半句の訂正も無く通過した。朝野一心、とでも言うべきであろうか、これは、私だけの幸福ではあるまい。
底本:「太宰治全集7」ちくま文庫、筑摩書房
1989(昭和64)年3月28日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
入力:柴田卓治
校正:青木直子
2000年6月20日公開
2004年3月4日修正
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