ように若くて、そうして慶応の文科のような華やかなところで勉強している身が、あんな顔では、ずいぶん苦しい事だってあるだろうと思う。実際、顔を合せると、こちらまで人生がいやになるくらいなのだ。本当に、ひどいのだ。あの人は、これからの永い人生に於《おい》ても、その先天的なもののために、幾度か人に指さされ、かげ口を言われ、敬遠せられる事だろう。僕はそれを考えると、現代の社会機構に対して懐疑的になり、この世が恨めしくなって来るのだ。世の中の人々の冷酷な気持が、いやになる。おのずから義憤も感ずる。俊雄君が、将来それ相当の職業について、食うに困らぬくらいの生活が出来たら、それは実に好もしく祝福すべき事だ。けれども結婚の場合は、どうだろう。これはと思う婦人があっても、自分の醜い顔のために結婚できなかった時には、どんなに悲惨な思いをするだろう。大声で、うめくだろう。ああ、俊雄君の事を考えると憂鬱だ。心の底から同情はしているけれど、どうも、いやだ。ひどいんだ。何も形容が出来ないのである。なるべく見たくないのだ。僕にもやっぱり、世の中の人と同じ様な、冷酷で、いい気なものがあるのかも知れない。考えれば考えるほ
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