だ。僕たちが行った頃《ころ》には、もう「女殺油地獄」が終り、「葉桜」もすんだ様子で、最後の「雁」がはじまったところであった。舞台には、明治の雰囲気がよく出ていた。僕は大正の生れだから、明治の雰囲気など、知る由《よし》もないが、でも上野公園や芝公園を歩いていると、ふいと感ずる郷愁のようなもの、あれが、きっと明治の匂いだろうと信じているのだ。ただ、役者の台詞《せりふ》が、ほとんど昭和の会話の調子なので、残念に思った。脚色家の不注意かも知れない。俳優は、うまい。どんな端役《はやく》でも、ちゃんと落ちついてやっている。チイムワアクがとれている。いい劇団だと思った。こんな劇団にはいる事が出来たら、何も言う事はないと思った。幕合《まくあい》に廊下を歩いていたら、廊下の曲り角に小さい箱が置かれてあって、その箱に、「今夜の御感想をお聞かせ下さい」と白ペンキで書かれてあるのを見て、ふいとインスピレエション。
 箱に添えられてある便箋に、「団員志望者であります。手続きを教えて下さい。」と書いて住所と名前をしたため、箱に投入した。なんと佳い思いつきであろう。これもまた奇蹟だ。こんないい方法があるとは、この箱
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