理想の高い匂《にお》いが無いばかりか、生活の影さえ稀薄《きはく》だ。演劇を生活している、とでもいうような根強さが無い。演劇を虚栄している、とでも言おうか、雰囲気《ふんいき》でいい心地になってる趣味家ばっかり集っている感じだ。僕には、どうしても物足りない。僕はもう、きょうからは、甘い憧憬家《しょうけいか》ではないのだ。へんな言いかただけど、僕はプロフェショナルに生きたい!
 斎藤氏のところへ行こうと決意した。きょうは、どうあっても、僕の覚悟のほどを、よく聞いてもらわなければならぬ、と思った。そう決意した時、僕のからだは、ぬくぬくと神の恩寵《おんちょう》に包まれたような気がした。人間のみじめさ、自分の醜さに絶望せず、「凡《すべ》て汝《なんじ》の手に堪《た》うる事は力をつくしてこれを為《な》せ。」
 努めなければならぬ。十字架から、のがれようとしているのではない。自分の醜いしっぽをごまかさず、これを引きずって、歩一歩よろめきながら坂路をのぼるのだ。この坂路の果にあるものは、十字架か、天国か、それは知らない。かならず十字架ときめてしまうのは、神を知らぬ人の言葉だ。ただ、「御意《みこころ》のまま
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