学生は、実にいやな、憎しみの眼で、チラと僕を見たきりで、さっさと正門へはいって行ってしまった。こないだのあの無邪気なあわて者とは、まるで別人の感じなのだ。その眼つきは、なんとも言えない、あさはかなものだった。蹴球部へはいらないからと言って、急に、あんなに態度を変えなくたっていいじゃないか。同じR大生じゃないか。馬鹿野郎! と背後から怒鳴りつけてやりたかった。もう、二十四、五にもなっているのだろう。いいとしをして、本気に僕を憎んでいやがる。僕は、その学生を極度に軽蔑すると共に、なんだか悪い人間性を見つけたような気がして、ひどく淋《さび》しくなってしまった。きのうまでの幸福感が、一瞬にして、奈落《ならく》のどん底にたたき込まれたような気がした。ケチな、ケチな小市民根性。彼等《かれら》のその醜いケチな根性が、どんなに僕たちの伸び伸びした生活をむざんに傷つけ、興覚《きょうざ》めさせている事か。しかも自分の流している害毒を反省するどころか、てんで何も気がついていないのだから驚く。馬鹿ほどこわいものがないとは此《こ》の事だ。これだから、学校がいやになるのだ。学校は、学問するところではなくて、くだら
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