ているんでしょう? 俊雄さんの事なんか、お前たちは、もう、てんで馬鹿にして、――」
「そんな事はない。」僕は狼狽《ろうばい》した。
「だって、ことしのお正月にも、来てくれなかったし、お前たちばかりでなく、親戚《しんせき》の人も誰ひとり下谷へは立ち寄ってくれないんだもの。あたしも、考えたの。」
なるほど、そんな事もあるのか、と僕は思わず長大息を発した。
「ことしのお正月なんか、進ちゃんの来るのを、とっても楽しみにして待っていたのよ。鈴岡も、進ちゃんを、しんから可愛《かわい》がって、坊や、坊やって言って、いつも噂をしているのに。」
「腹が痛かったんだ、腹が。」しどろもどろになった。あんな事でも、姉さんの身にとっては、ずいぶん手痛い打撃なんだろうな、とはじめて気附《きづ》いた。
「それぁ、行かないのが当り前さ。」叔母さんは、こんどは僕の味方をした。滅茶滅茶《めちゃめちゃ》だ。「どだい、向うから来やしないんだものね。麹町にも、とんとごぶさただそうだし、私のところへなんか、年始状だって寄こしゃしない。それぁもう、私なんかは、――」また始めたい様子である。
「いけませんでした。」姉さんは、落ちつ
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