うじまち》でも、いい子供ばかりあって、仕合わせだねえ。進ちゃん、いい子だから、もうお帰り。家へ帰って兄さんにね、言いたい事があるならこんな子供なんかを使って寄こさず男らしくご自分でおいでなさい、ってそう言っておくれ。なんだい、陰でこそこそしているばかりで、いっこうに此の頃は、目黒へも姿を見せないじゃないか。兄さんには、私から、うんと言ってやりたい事があるんです。毎晩、酒を飲んで帰るって? だらしがない。」
「兄さんの悪口は言わないで下さい。」僕も本気に怒ってしまった。「叔母さんこそ、言葉をつつしんだらどうですか。僕は何も、兄さんにけしかけられて、ここへ来たんじゃないよ。子供、子供って、甘く見ちゃ困るね。僕にだって、いい人と悪い人の見わけはつくんだ。僕はきょう叔母さんと、喧嘩《けんか》しに来たんだ。兄さんに関係は無い事だ。兄さんは、こんどの事に就いては誰にもなんにも言ってやしない。そうして、ひとりで心配しているんだ。兄さんは、卑怯《ひきょう》な人じゃないぜ。」
「さ、お菓子は、どう?」叔母さんは老獪《ろうかい》である。「おいしいカステラだよ。叔母さんには、なんでもちゃんと判《わか》ってる
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