雀
太宰治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)五所川原《ごしょがわら》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)外国|土産《みやげ》でもたくさんあるんなら
−−
この津軽へ来たのは、八月。それから、ひとつきほど経って、私は津軽のこの金木町から津軽鉄道で一時間ちかくかかって行き着ける五所川原《ごしょがわら》という町に、酒と煙草を買いに出かけた。キンシを三十本ばかりと、清酒を一升、やっと見つけて、私はまた金木行の軽便鉄道に乗った。
「や、修治。」と私の幼名を呼ぶ者がある。
「や、慶四郎。」と私も答えた。
加藤慶四郎君は白衣である。胸に傷痍《しょうい》軍人の徽章《きしょう》をつけている。もうそれだけで私には万事が察せられた。
「御苦労様だったな。」私のこんな時の挨拶《あいさつ》は甚《はなは》だまずい。しどろもどろになるのである。
「君は?」
「戦災というやつだ。念いりに二度だ。」
「そう。」
向うも赤面し、私も赤面し、まごついて、それから、とにかく握手した。
慶四郎君は、私と小学校が同クラスであった。相撲《すもう》がクラスで二ばん目に強かっ
次へ
全15ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング