うろうろしていて、弾を拾ったり、標的の位置を直したりするのだが、いつもはそんな目ざわりなんて思った事は無かった。しかしその時は、雀の標的のすぐ傍に立って笑っているツネちゃんが、ひどく目ざわりで危なかしくていけなかった。
「どけ、どけ。」と僕は無理に笑って、重ねて言った。
「はい、はい。」
ツネちゃんは笑いながら一尺ばかりわきへ寄る。
僕はねらいをつける。引金をひく。ブスと発射。
カッタンカッタン。
当らないのだ。
「どうしたの?」
とまた言う。
僕は、へんに熱くなって来た。黙って三発目の弾をこめてねらう。ブスと発射。
カッタンカッタン。
当らない。
「どうしたの?」
さらに四発目。当らない。
「ほんとうに、どうしたの?」と言って、ツネちゃんはしゃがんだ。
僕は答えず五発目の弾をこめる。しゃがんでいるツネちゃんのモンペイの丸い膝《ひざ》がこんもりしている。この野郎。もう処女ではないんだ。
いきなりブスとその膝を撃った。
「あ。」と言って、前に伏した。それからすぐに顔を挙げて、
「雀じゃないわよ。」と言った。
僕はそれを聞いて、全身に冷水をあびせられたような気がして
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