に強いんだ。
(節子)(落ちついて)あなたは、はずかしくないのですか?
(野中)(呻《うめ》く)ううむ、ちえっ、ちくしょう! (顔を挙げて)全人類を代表してお前に言う。お前は、悪魔だ!
(節子)(冷く)なぜですか!
(野中) わからんのか? 人が死ぬほど恥かしがっているその現場に平気で乗り込んで来て、恥かしくありませんかと聞ける奴《やつ》あ悪魔だ。
(節子) あなたは、はずかしがっていません。
(野中) どうしてわかる? どうして、それがわかるんだ。
(節子)(無言)
(野中) イエス答をなし給わず、か。お前のその、何も物を言わぬという武器は、強いねえ。あんまり、いじめないでくれよ。ああ、頭が痛い。
(節子) これから、どうなさるのですか?
(野中) 死ぬんだ。死にゃあいいんだろう? どうせ僕は、野中|家《け》の面《つら》よごしなんだから、死んで申しわけを致しますですよ。(崩れるように、砂の上にあぐらを掻《か》き)ああ、頭が痛い。切腹だ。切腹をして死んでしまうんだ。
(節子) ふざけている時ではございません。菊代さんを、あなたは、どうなさるおつもりです。
(野中) どうもこうも出来やし
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