までいたのであるが、ふと、膝元《ひざもと》の白い角封筒に眼をとめ、取りあげて立ち、縁側に出てはきものを捜し、野中のサンダルをつっかけ、無言で皆のあとを追う。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]――舞台、廻る。

     第三場

[#ここから2字下げ]
舞台は、月下の海浜。砂浜に漁船が三艘あげられている。そのあたりに、一むらがりの枯れた葦《あし》が立っている。
背景は、青森湾。

舞台とまる。

一陣の風が吹いて、漁船のあたりからおびただしく春の枯葉舞い立つ。

いつのまにやら、前場の姿のままの野中教師、音も無く花道より登場。
すこし離れて、その影の如く、妻節子、うなだれてつき従う。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
(野中)(舞台中央まで来て、疲れ果てたる者の如く、かたわらの漁師に倒れるように寄りかかり)ああ、頭が痛い。これあ、ひどい。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから2字下げ]
節子、無言で野中に寄り添い、あたりを見廻し、それから白い角封筒をそっと野中に差し出す。角封筒は月光を受けて、鋭く光る。
[#ここで字下げ終わり]
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