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(奥田) 大丈夫ですか? そんなに飲んで。
(野中) 大丈夫、だいじょうぶ。これは君、サントリイウイスキイという高級品じゃないか。馬鹿にするな。君もそんなに気取ってないで一口《ひとくち》まあ、こころみてごらん。
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あなたじゃ
ないのよ
あなたじゃ
ない
あなたを
待って
いたのじゃない
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ちょっといいね、これは。失恋の歌だそうだよ。あわれじゃないか。まあ一つ飲め。(一升瓶を持ち上げる)
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(奥田)(それを制して)いや、僕のはまだここに一ぱいあります。(苦笑しながら、申しわけみたいにちょっと自分の茶碗に口をつけ、すぐまたそれを卓の上に置き)どうも、これは。
(野中) いのちが惜しいか。(笑う)
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上手《かみて》の襖しずかにあく。
野中の妻、節子、大きいお皿二つを捧げてはいって来る。一つのお皿には刺身、一つのお皿には焼《や》き肴《ざかな》。
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