きたなげの所謂《いわゆる》「春の枯葉」のみ、そちこちに散らばっている。
舞台とまる。
弥一の義母しづ、庭の物干竿《ものほしざお》より、たくさんの洗濯物を取り込みのさいちゅう。
菊代の兄、奥田義雄は、六畳間の縁側にしゃがんで七輪《しちりん》をばたばた煽《あお》ぎ煮物をしながら、傍に何やら書籍を置いて読んでいる。
斜陽は既に薄れ、暮靄《ぼあい》の気配。
第一場と同じ日。
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(しづ)(洗濯物を取り込み、それを両腕に一ぱいかかえ、上手《かみて》に立ち去りかけて、ふと縁側のほうを見て立ちどまり)あら、奥田先生、お鍋《なべ》が吹きこぼれていますよ。
(奥田)(あわてて鍋の蓋《ふた》を取り、しづの方を見て苦笑し)妹がまたきょうも、どこかへ飛び出して、帰らないものだから、どうも。
(しづ) おや、おや。それでは、お兄さんもたいへんですね。(笑いながら縁側に近寄り)何を煮ていらっしゃるの?
(奥田)(いそいでまた鍋の蓋をして)いや、これは見せられません。何でもかんでもぶち込んで煮て、そうして眼をつぶって呑《の》み込んでしまうつ
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