わかったら、あなたの奥さんも、お母さんも、それから、あなただって、どんなにいやな顔をするでしょう。いいえ、それにきまっているわ。しんそこから、あたしという女を軽蔑《けいべつ》し、薄きたない気味《きび》の悪いものに思うにきまっていますよ。あたしは、うっかり、自分の貧乏を口にすることも出来やしない。あなたたちは違うのよ。あなたたちは、ご自分のことを貧乏だの何だのと言っても、そりゃもうちゃんとした財産のあることが誰にもわかっているのだから、物価が高くて困るとか、このさきどうしようなんておっしゃっても、それはご愛嬌《あいきょう》にもなるけれど、それをもし、あたしたちが言ったらどうでしょう。冗談にもご愛嬌にもなりやしない。ただもう浅間《あさま》しい、みじめな下等な人種として警戒されるくらいのものなのだわ。ばかばかしい。だからあたしたちは、お金のありったけを気前よくぱっぱっと使って見せなければならなくなるのよ。そうするとあなたたちはまた、東京で暮して来た奴等《やつら》は、むだ使いしてだらしがないと言うし、それかと言って、あなたたちと同様にケチな暮し方をするともう、本物《ほんもの》の貧乏人の、みじめ
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