見える。
全校生徒、百五十人くらいの学校の気持。

正面の黒板には、次のような文字が乱雑に、秩序無く書き散らされ、ぐいと消したところなどもあるが、だいたい読める。授業中に教師野中が書いて、そのままになっているという気持。
その文字とは、
「四等国。北海道、本州、四国、九州。四島国。春が来た。滅亡か独立か。光は東北から。東北の保守性。保守と封建。インフレーション。政治と経済。闇。国民相互の信頼。道徳。文化。デモクラシー。議会。選挙権。愛。師弟。ヨイコ。良心。学問。勉強と農耕。海の幸。」
等である。

幕あく。

舞台しばらく空虚。

突然、荒い足音がして、「叱《しか》るんじゃない。聞きたい事があるんだ。泣かなくてもいい。」などという声と共に、上手《かみて》のドアをあけ、国民学校教師、野中弥一が、ひとりの泣きじゃくっている学童を引きずり、登場。
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(野中)(蒼《あお》ざめた顔に無理に微笑を浮べ)何も、叱るんじゃないのだ。なんだいお前は、もう高等科二年にもなったくせに、そんなに泣いて、みっともないぞ。さあ、ちゃんと、涙を
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