小さいアルバム
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蛍《ほたる》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)よっぽど[#「よっぽど」は底本では「よっぼど」]
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 せっかくおいで下さいましたのに、何もおかまい出来ず、お気の毒に存じます。文学論も、もう、あきました。なんの事はない、他人の悪口を言うだけの事じゃありませんか。文学も、いやになりました。こんな言いかたは、どうでしょう。「かれは、文学がきらいな余りに文士になった。」
 本当ですよ。もともと戦いを好まぬ国民が、いまは忍ぶべからずと立ち上った時、こいつは強い。向うところ敵なしじゃないか。君たちも、も少し、文学ぎらいになったらどうだね。真に新しいものは、そんなところから生れて来るのですよ。
 まあ私の文学論は、それだけで、あとは、鳴かぬ蛍《ほたる》、沈黙の海軍というところです。
 どうも、せっかく遊びにおいで下さったのに、こんなに何も、あいそが無くては、私のほうでしょげてしまいます。お酒でもあるといいんだけど、二、三日前に配給されたお酒は、もう、その日のうちに飲んでしまって、
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