変な騒ぎでありました。
それ、ごらん。その次の写真に於いて、既に間抜けの本性を暴露している。これもやはり高等学校時代の写真だが、下宿の私の部屋で、机に頬杖《ほおづえ》をつき、くつろいでいらっしゃるお姿だ。なんという気障《きざ》な形だろう。くにゃりと上体をねじ曲げて、歌舞伎のうたた寝の形の如く右の掌を軽く頬にあて、口を小さくすぼめて、眼は上目使《うわめづか》いに遠いところを眺めているという馬鹿さ加減だ。紺絣《こんがすり》に角帯というのもまた珍妙な風俗ですね。これあいかん。襦袢《じゅばん》の襟《えり》を、あくまでも固くきっちり合せて、それこそ、われとわが襟でもって首をくくって死ぬつもり、とでもいったようなところだ。ひどいねえ。矢庭《やにわ》にこの写真を、破って棄てたい発作にとらわれるのだが、でも、それは卑怯《ひきょう》だ。私の過去には、こんな姿も、たしかにあったのだ。鏡花《きょうか》の悪影響かも知れない。笑って下さい。逃げもかくれもせずに、罰を受けます。いさぎよく御高覧に供する次第だ。それにしても、どうも、こいつは、ひどいねえ。そのころ高等学校では、硬派と軟派と対立していて、軟派の生徒が
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