してもらいました。これはことしのお正月にK君と二人で、共に紋服を着て、井伏さんのお留守宅(作家井伏鱒二氏は、軍報道班員としてその前年の晩秋、南方に派遣せられたり)へ御年始にあがって、ちょうどI君も国民服を着て御年始に来ていましたが、その時、I君が私たち二人を庭先に立たせて撮影した物です。似合いませんね。へんですね。K君はともかく、私の紋服姿は、まるで、異様ですね。K君の批評に依ると、モーゼが紋服を着たみたいだそうですが、当っていますかね。どうせ、まともではありません。ひどく顔が骨ばって、そうして大きくなったようですね。ごらんなさい。これは或る友人の出版記念会の時の写真ですが、こんなにたくさんの顔が並んでいる中で、ずば抜けて一つ大きい顔があります。私の顔です。羽子板がずらりと並んでいて、その中で際立って大きいのを、三つになるお嬢さんが、あれほしい、あれ買って、とだだをこねて、店のあるじの答えて言うには、お嬢さん、あれはいけません、あれは看板です、という笑い話。こんなに顔が大きくなると、恋愛など、とても出来るものではありません。高麗屋《こうらいや》に似ているそうですね。笑ってはいけません。
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