た筈ですが、いつのまにやら、無くなりました。ちっとも惜しい写真ではありません。
 すったもんだの揚句は大病になって、やっと病院から出て千葉県の船橋の町はずれに小さい家を一軒借りて半病人の生活をはじめた時の姿は、これです。ひどく痩《や》せているでしょう? それこそ、骨と皮です。私の顔のようでないでしょう? 自分ながら少し、気味が悪い。爬虫類《はちゅうるい》の感じですね。自分でも、もう命が永くないと思っていました。このころ第一創作集の「晩年」というのが出版せられて、その創作集の初版本に、この写真をいれました。それこそ「晩年の肖像」のつもりでしたが、未だに私は死にもせず、たとえば、昼の蛍みたいに、ぶざまにのそのそ歩きまわっているのです。めっきり、太った。この写真をごらんなさい。二年ほど船橋にいましたが、また東京へ出て来て、それまで六年間一緒に暮していた女のひとともわかれて、独りで郊外の下宿でごろごろしているうちに、こんなに太ってしまいました。最近はまた少し痩せましたけど、この下宿の時代は、私は、もぐらもちのように太っていました。この写真は、すなわち太りすぎて、てれて笑っているところです。「虚
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