私もちょっと気取らざるを得なかったのです。私の両側に立っている二人の美男子に、見覚えがあるでしょう? そうです、映画俳優です。Yと、Tです。それから、前にしゃがんでいる二人の婦人にも、見覚えがあるでしょう? そうです、女優のKとSです。おどろいたでしょう。これはね、私が大学へはいったとしの秋に、或るひとに連れられて松竹の蒲田《かまた》撮影所へ遊びに行って、その時の記念写真なのです。その頃、松竹の撮影所は、蒲田にありました。その時、私を連れて行ってくれた人というのは、映画界の余程の顔役らしく、私たちはその日たいへん歓迎されました。うしろに二人、でっぷり太った男が立っているでしょう? 眼鏡をかけているのが、その顔役の人で、もうひとりの、色の白いのが撮影所の所長です。この所長は、とても腰の低いひとで、一介の書生に過ぎぬ私を、それこそ下にも置かず、もてなしてくれました。商売人のようないや味もなく、まじめな、礼儀正しい人でした。本当に、感心な人でした。撮影所の中庭で、幹部の俳優たちと記念撮影をしたのですが、世の中から美男子と言われ騒がれているYもTも、私には、さほどの美男子とも思われず、三人ならぶと、私が一ばんいいのではなかろうかというような気がして、そこでこの大袈裟な腕組という事になったのですが、あとで、この写真がとどけられたのを見たら、やっぱり、だめでした。どうして私はこんなに、あか抜けないのだろう。YもTも、こうしてみると、さすがにスッキリしていますね。二匹の競馬の馬の間に、駱駝《らくだ》がのっそり立っているみたいですね。私は、どうしてこんなに、田舎《いなか》くさいのだろう。これでも、たいへんいいつもりで腕組みしたのですがね。自惚《うぬぼ》れの強い男です。自分の鈍重な田舎っぺいを、明確に、思い知ったのは、つい最近の事なのですからね。もっとも今では、自分のこの野暮ったさを、そんなに恥じてもいませんけれど。
 学生時代の写真は、この三枚だけです。この後の三、四年間の生活は滅茶苦茶で、写真をとってもらうような心の余裕も無かったし、また誰か物好きの人があって、当時の私の姿を撮影しようと企てたとしても、私は絶えずキョトキョト動き廻って一瞬もじっとしていないので、撮影の計画を放棄するより他は無かったでしょう。それでも、菜っ葉服を着て銀座裏のバアの前に立っている写真など、二、三枚あっ
前へ 次へ
全9ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング