女類
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)伊豆《いず》
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 僕(二十六歳)は、女をひとり、殺した事があるんです。実にあっけなく、殺してしまいました。
 終戦直後の事でした。僕は、敗戦の前には徴用で、伊豆《いず》の大島にやられていまして、毎日毎日、実にイヤな穴掘工事を言いつけられ、もともとこんな痩《や》せ細ったからだなので、いやもう、いまにも死にそうな気持ちになったほどの苦労をしました。終戦になって、何が何やら、ただへとへとに疲れて、誇張した言い方をするなら、ほとんど這《は》うようにして栃木県の生家にたどりつき、それから三箇月間も、父母の膝下《しっか》でただぼんやり癈人《はいじん》みたいな生活をして、そのうちに東京の、学生時代からの文学の友だちで、柳田という抜け目の無い、なかなかすばしこい人物が、「金はある。新雑誌を発刊するつもり。君も手伝え。」という意味の速達を寄こして、僕も何だか、ハッと眼が覚めたような気持ちになり、急ぎ上京して、そうして今のこの「新現実」という文芸雑誌の、まあ、編輯部《へんしゅうぶ》次長というような肩書で、それから三年も、ま
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