のうちの口下手の者が、その責任を押しつけられ、犯しもせぬ罪を世人に謝し、なんとなく肩身のせまい思いをしているものである。それでは、いけない。
うっとうしいことである。作家がいけないのである。作家精神がいけないのである。不幸が、そんなにこわかったら、作家をよすことである。作家精神を捨てることである。不幸にあこがれたことがなかったか。病弱を美しいと思い描いたことがなかったか。敗北に享楽したことがなかったか。不遇を尊敬したことがなかったか。愚かさを愛したことがなかったか。
全部、作家は、不幸である。誰もかれも、苦しみ苦しみ生きている。緒方氏を不幸にしたものは、緒方氏の作家である。緒方氏自身の作家精神である。たくましい、一流の作家精神である。
人の死んだ席で、なんの用事もせず、どっかと坐ったまま仏頂づらしてぶつぶつ屁理窟《へりくつ》ならべている男の姿は、たしかに、見よいものではない。馬鹿である。気のきいたお悔みの言葉ひとつ述べることができない。許したまえ。この男は、悲しいのだ。自身の無力がくやしいのだ。息子戦死の報を聞くや、つと立って台所に行き、しゃっしゃっと米をといだという母親のぶざま
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