うふざけ切った読み方をして、太宰は実朝をユダヤ人として取り扱っている、などと何が何やら、ただ意地悪く私を非国民あつかいにして弾劾しようとしている愚劣な「忠臣」もあった。私の或る四十枚の小説は発表直後、はじめから終りまで全文削除を命じられた。また或る二百枚以上の新作の小説は出版不許可になった事もあった。しかし、私は小説を書く事は、やめなかった。もうこうなったら、最後までねばって小説を書いて行かなければ、ウソだと思った。それはもう理窟《りくつ》ではなかった。百姓の糞意地《くそいじ》である。しかし、私は何もここで、誰かのように、「余はもともと戦争を欲せざりき。余は日本軍閥の敵なりき。余は自由主義者なり」などと、戦争がすんだら急に、東条の悪口を言い、戦争責任云々と騒ぎまわるような新型の便乗主義を発揮するつもりはない。いまではもう、社会主義さえ、サロン思想に堕落している。私はこの時流にもまたついて行けない。
 私は戦争中に、東条に呆れ、ヒトラアを軽蔑《けいべつ》し、それを皆に言いふらしていた。けれどもまた私はこの戦争に於いて、大いに日本に味方しようと思った。私など味方になっても、まるでちっともお
前へ 次へ
全40ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング