もっと気弱くなれ! 偉いのはお前じゃないんだ! 学問なんて、そんなものは捨てちまえ!
 おのれを愛するが如《ごと》く、汝《なんじ》の隣人を愛せよ。それからでなければ、どうにもこうにもなりゃしないのだよ。
 とこう言うとまた、れいのサロンの半可通どもは、その思想は云々《うんぬん》と、ばかな議論をはじめるだろう。かえるのつらに水である。やり切れねえ。
 いったい私の言っているサロンとは何の事か。諸外国の文芸の発祥地と言われているサロンと、日本のサロンとは、どんな根本的な差異があるか。皇室または王室と直接のつながりのあるサロンと、企業家または官吏につながっているサロンと、どう違うか。君たちのサロンは、猿芝居《さるしばい》だというのはどういうわけか。いまここで、いちいち諸君に噛《か》んでふくめるように説明してお聞かせすればいいのかも知れないが、そんな事に努力を傾注していると、君たちからイヤな色気を示されたりして、太宰もサロンに迎えられ、むざんやミイラにされてしまうおそれが多分にあるので、私はこれ以上の奉仕はごめんこうむる。なあに、いいやつには、言わなくたってちゃんとわかっているのだから。
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