て學校へ出て來るが、私も毎年きまつて茶色の太い縞のある本ネルの着物を着て行つて、學校の狹い廊下を女のやうになよなよと小走りにはしつて見たりするのであつた。私はそのやうなおしやれを、人に感附かれぬやうひそかにやつた。うちの人たちは私の容貌を兄弟中で一番わるいわるい、と言つてゐたし、そのやうな惡いをとこが、こんなおしやれをすると知られたら皆に笑はれるだらう、と考へたからである。私は、かへつて服裝に無關心であるやうに振舞ひ、しかもそれは或る程度まで成功したやうに思ふ。誰の眼にも私は鈍重で野暮臭く見えたにちがひないのだ。私が兄弟たちとお膳のまへに坐つてゐるときなど、祖母や母がよく私の顏のわるい事を眞面目に言つたものだが、私にはやはりくやしかつた。私は自分をいいをとこだと信じてゐたので、女中部屋なんかへ行つて、兄弟中で誰が一番いいをとこだらう、とそれとなく聞くことがあつた。女中たちは、長兄が一番で、その次が治ちやだ、と大抵さう言つた。私は顏を赤くして、それでも少し不滿だつた。長兄よりもいいをとこだと言つて欲しかつたのである。
 私は容貌のことだけでなく、不器用だといふ點で祖母たちの氣にいらなかつ
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