臺紙の新しい手札型の寫眞をいちまいのべて寄こした。見ると、みよが最近私の母の供をして、叔母の家へでも行つたらしく、そのとき、叔母と三人してうつした寫眞のやうであつた。母がひとり低いソフアに坐つて、そのうしろに叔母とみよが同じ脊たけぐらゐで並んで立つてゐた。背景は薔薇の咲き亂れた花園であつた。私たちは、お互ひの頭をよせつつ、なほ鳥渡の間その寫眞に眼をそそいだ。私は、こころの中でとつくに弟と和解してゐたのだし、みよのあのことも、ぐづぐづして弟にはまだ知らせてなかつたし、わりにおちつきを裝うてその寫眞を眺めることが出來たのである。みよは、動いたらしく顏から胸にかけての輪廓がぼつとしてゐた。叔母は兩手を帶の上に組んでまぶしさうにしてゐた。私は、似てゐると思つた。



底本:「太宰治全集2」筑摩書房
   1998(平成10)年5月25日初版第1刷
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:赤木孝之
校正:小林繁雄
2004年4月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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