劣な私は、これを押売りではないかとさえ疑った。家内にも言いきかせ、とにかく之《これ》は怪しいから、そっくり帯封も破らずそのままにして保存して置くよう、あとで代金を請求して来たら、ひとまとめにして返却するよう、手筈《てはず》をきめて置いたのである。そのうちに、新聞の帯封に差出人の名前を記して送ってくるようになった。Wである。私の知らぬお名前であった。私は、幾度となく首ふって考えたが、わからなかった。そのうちに、「金木町のW」と帯封に書いてよこすようになった。金木町というのは、私の生れた町である。津軽平野のまんなかの、小さい町である。同じ町の生れゆえ、それで自社の新聞を送って下さったのだ、ということは、判明するに到ったが、やはり、どんなお人であるか、それを思い出すことができないのである。とにかく御好意のほどは、わかったのであるから、私は、すぐにお礼をハガキに書いて出した。「私は、十年も故郷へ帰らず、また、いまは肉親たちと音信さえ不通の有様なので、金木町のW様を、思い出すことが、できず、残念に存じて居ります。どなたさまで、ございましたでしょうか。おついでの折は、汚い家ですが、お立ち寄り下さい
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