芭蕉《ばしょう》の葉が散らないで腐って行くように、立ちつくしたままおのずから腐って行くのをありありと予感せられるのが、おそろしいのです。とても、たまらないのです。だから私は、「女大学」にそむいても、いまの生活からのがれ出たいのです。
それで、私、あなたに、相談いたします。
私は、いま、お母さまや弟に、はっきり宣言したいのです。私が前から、或るお方に恋をしていて、私は将来、そのお方の愛人として暮らすつもりだという事を、はっきり言ってしまいたいのです。そのお方は、あなたもたしかご存じの筈です。そのお方のお名前のイニシャルは、M・Cでございます。私は前から、何か苦しい事が起ると、そのM・Cのところに飛んで行きたくて、こがれ死にをするような思いをして来たのです。
M・Cには、あなたと同じ様に、奥さまもお子さまもございます。また、私より、もっと綺麗で若い、女のお友達もあるようです。けれども私は、M・Cのところへ行くより他《ほか》に、私の生きる途が無い気持なのです。M・Cの奥さまとは、私はまだ逢った事がありませんけれども、とても優しくてよいお方のようでございます。私は、その奥さまの事を考える
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