のがおいやだったら、私も一緒について行ってあげますよ」
「ひとりで行ったほうが、いいのでしょう?」
「ひとりで行ける? そりゃ、ひとりで行ったほうがいいの」
「ひとりで行くわ」
 それからお咲さんは、焼跡の整理を少し手伝って下さった。
 整理がすんでから、私はお母さまからお金をいただき、百円紙幣を一枚ずつ美濃紙《みのがみ》に包んで、それぞれの包みに、おわび、と書いた。
 まず一ばんに役場へ行った。村長の藤田さんはお留守だったので、受附《うけつけ》の娘さんに紙包を差し出し、
「昨夜は、申しわけない事を致しました。これから、気をつけますから、どうぞおゆるし下さいまし。村長さんに、よろしく」
 とお詫びを申し上げた。
 それから、警防団長の大内さんのお家へ行き、大内さんがお玄関に出て来られて、私を見て黙って悲しそうに微笑《ほほえ》んでいらして、私は、どうしてだか、急に泣きたくなり、
「ゆうべは、ごめんなさい」
 と言うのが、やっとで、いそいでおいとまして、道々、涙があふれて来て、顔がだめになったので、いったんお家へ帰って、洗面所で顔を洗い、お化粧をし直して、また出かけようとして玄関で靴《くつ
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