をお願いしたい事があるのです。
 それは、私の生れた子を、たったいちどでよろしゅうございますから、あなたの奥さまに抱かせていただきたいのです。そうして、その時、私にこう言わせていただきます。
「これは、直治が、或る女のひとに内緒に生ませた子ですの」
 なぜ、そうするのか、それだけはどなたにも申し上げられません。いいえ、私自身にも、なぜそうさせていただきたいのか、よくわかっていないのです。でも、私は、どうしても、そうさせていただかなければならないのです。直治というあの小さい犠牲者のために、どうしても、そうさせていただかなければならないのです。
 ご不快でしょうか。ご不快でも、しのんでいただきます。これが捨てられ、忘れかけられた女の唯一《ゆいいつ》の幽《かす》かないやがらせと思召《おぼしめ》し、ぜひお聞きいれのほど願います。
 M・C マイ、コメデアン。
 昭和二十二年二月七日。



底本:「斜陽」新潮文庫、新潮社
   1950(昭和25)年11月20日発行
   1994(平成4)年6月5日93刷
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見
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