て置いたのです。
 姉さんは美しく、(僕は美しい母と姉を誇りにしていました)そうして、賢明だから、僕は姉さんの事に就《つ》いては、なんにも心配していませぬ。心配などする資格さえ僕には有りません。どろぼうが被害者の身の上を思いやるみたいなもので、赤面するばかりです。きっと姉さんは、結婚なさって、子供が出来て、夫にたよって生き抜いて行くのではないかと僕は、思っているんです。
 姉さん。
 僕に、一つ、秘密があるんです。
 永いこと、秘めに秘めて、戦地にいても、そのひとの事を思いつめて、そのひとの夢を見て、目がさめて、泣きべそをかいた事も幾度あったか知れません。
 そのひとの名は、とても誰にも、口がくさっても言われないんです。僕は、いま死ぬのだから、せめて、姉さんにだけでも、はっきり言って置こうか、と思いましたが、やっぱり、どうにもおそろしくて、その名を言うことが出来ません。
 でも、僕は、その秘密を、絶対秘密のまま、とうとうこの世で誰にも打ち明けず、胸の奥に蔵して死んだならば、僕のからだが火葬にされても、胸の裏だけが生臭く焼け残るような気がして、不安でたまらないので、姉さんにだけ、遠まわし
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