したが》わぬ者《もの》は、我《われ》に相応《ふさわ》しからず。生命《いのち》を得《う》る者《もの》は、これを失《うしな》い、我《わ》がために生命《いのち》を失《うしな》う者《もの》は、これを得《う》べし」
 戦闘、開始。
 もし、私が恋ゆえに、イエスのこの教えをそっくりそのまま必ず守ることを誓ったら、イエスさまはお叱《しか》りになるかしら。なぜ、「恋」がわるくて、「愛」がいいのか、私にはわからない。同じもののような気がしてならない。何だかわからぬ愛のために、恋のために、その悲しさのために、身《み》と霊魂《たましい》とをゲヘナにて滅《ほろぼ》し得《う》る者《もの》、ああ、私は自分こそ、それだと言い張りたいのだ。
 叔父さまたちのお世話で、お母さまの密葬を伊豆で行い、本葬は東京ですまして、それからまた直治と私は、伊豆の山荘で、お互い顔を合せても口をきかぬような、理由のわからぬ気まずい生活をして、直治は出版業の資本金と称して、お母さまの宝石類を全部持ち出し、東京で飲み疲れると、伊豆の山荘へ大病人のような真蒼《まっさお》な顔をしてふらふら帰って来て、寝て、或る時、若いダンサアふうのひとを連れて
前へ 次へ
全193ページ中147ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング