て来た。
 いつも冗談ばかりおっしゃる老先生も、その時は、お怒りになっていらっしゃるような素振りで、どしどし病室へはいって来られて、すぐにご診察を、おはじめになった。そうして、誰に言うともなく、
「お弱りになりましたね」
 と一こと低くおっしゃって、カンフルを注射して下さった。
「先生のお宿は?」
 とお母さまは、うわ言のようにおっしゃる。
「また長岡です。予約してありますから、ご心配無用。このご病人は、ひとの事など心配なさらず、もっとわがままに、召し上りたいものは何でも、たくさん召し上るようにしなければいけませんね。栄養をとったら、よくなります。明日また、まいります。看護婦をひとり置いて行きますから、使ってみて下さい」
 と老先生は、病床のお母さまに向って大きな声で言い、それから直治に眼くばせして立ち上った。
 直治ひとり、先生とお供の看護婦さんを送って行って、やがて帰って来た直治の顔を見ると、それは泣きたいのを怺《こら》えている顔だった。
 私たちは、そっと病室から出て、食堂へ行った。
「だめなの? そうでしょう?」
「つまらねえ」
 と直治は口をゆがめて笑って、
「衰弱が、ばかに
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