っと襖《ふすま》があいて、お母さまが笑いながら顔をお出しになって、
「まだ起きていらっしゃる。眠くないの?」
 とおっしゃった。
 机の上の時計を見たら、十二時だった。
「ええ、ちっとも眠くないの。社会主義のご本を読んでいたら、興奮しちゃいましたわ」
「そう。お酒ないの? そんな時には、お酒を飲んでやすむと、よく眠れるんですけどね」
 とからかうような口調でおっしゃったが、その態度には、どこやらデカダンと紙一重のなまめかしさがあった。

 やがて十月になったが、からりとした秋晴れの空にはならず、梅雨時《つゆどき》のような、じめじめして蒸し暑い日が続いた。そうして、お母さまのお熱は、やはり毎日夕方になると、三十八度と九度のあいだを上下した。
 そうして或る朝、おそろしいものを私は見た。お母さまのお手が、むくんでいるのだ。朝ごはんが一ばんおいしいと言っていらしたお母さまも、このごろは、お床に坐って、ほんの少し、おかゆを軽く一|碗《わん》、おかずも匂《にお》いの強いものは駄目《だめ》で、その日は、松茸《まつたけ》のお清汁《すまし》をさし上げたのに、やっぱり、松茸の香さえおいやになっていらっし
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