らの御返事が無ければ、私、押しかけようにも、何も、手がかりが無く、ひとりでぼんやり痩《や》せて行くだけでしょう。やはりあなたの何かお言葉が無ければ、ダメだったんです。
いまふっと思った事でございますが、あなたは、小説ではずいぶん恋の冒険みたいな事をお書きになり、世間からもひどい悪漢のように噂をされていながら、本当は、常識家なんでしょう。私には、常識という事が、わからないんです。すきな事が出来さえすれば、それはいい生活だと思います。私は、あなたの赤ちゃんを生みたいのです。他のひとの赤ちゃんは、どんな事があっても、生みたくないんです。それで、私は、あなたに相談をしているのです。おわかりになりましたら、御返事を下さい。あなたのお気持を、はっきり、お知らせ下さい。
雨があがって、風が吹き出しました。いま午後三時です。これから、一級酒(六合)の配給を貰《もら》いに行きます。ラム酒の瓶《びん》を二本、袋にいれて、胸のポケットに、この手紙をいれて、もう十分ばかりしたら、下の村に出かけます。このお酒は、弟に飲ませません。かず子が飲みます。毎晩、コップで一ぱいずついただきます。お酒は、本当は、コップ
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