失敗園
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)陋屋《ろうおく》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夏|痩《や》せなんだよ。
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(わが陋屋《ろうおく》には、六坪ほどの庭があるのだ。愚妻は、ここに、秩序も無く何やらかやら一ぱい植えたが、一見するに、すべて失敗の様子である。それら恥ずかしき身なりの植物たちが小声で囁《ささや》き、私はそれを速記する。その声が、事実、聞えるのである。必ずしも、仏人ルナアル氏の真似《まね》でも無いのだ。では。)

 とうもろこしと、トマト。

「こんなに、丈ばかり大きくなって、私は、どんなに恥ずかしい事か。そろそろ、実をつけなければならないのだけれども、おなかに力が無いから、いきむ事が出来ないの。みんなは、葦《あし》だと思うでしょう。やぶれかぶれだわ。トマトさん、ちょっと寄りかからせてね。」
「なんだ、なんだ、竹じゃないか。」
「本気でおっしゃるの?」
「気にしちゃいけねえ。お前さんは、夏|痩《や》せなんだよ。粋《いき》なものだ。ここの主人の話に拠《よ》ればお前さんは芭蕉《ばしょう》にも似ているそうだ。お気
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