ごとべや》にお弁当を持って出かけて、それっきり一週間も御帰宅にならない事もある。仕事、仕事、といつも騒いでいるけれども、一日に二、三枚くらいしかお出来にならないようである。あとは、酒。飲みすぎると、げっそり痩《や》せてしまって寝込む。そのうえ、あちこちに若い女の友達《ともだち》などもある様子だ。
子供、……七歳の長女も、ことしの春に生れた次女も、少し風邪をひき易《やす》いけれども、まずまあ人並。しかし、四歳の長男は、痩せこけていて、まだ立てない。言葉は、アアとかダアとか言うきりで一語も話せず、また人の言葉を聞きわける事も出来ない。這《は》って歩いていて、ウンコもオシッコも教えない。それでいて、ごはんは実にたくさん食べる。けれども、いつも痩せて小さく、髪の毛も薄く、少しも成長しない。
父も母も、この長男について、深く話し合うことを避ける。白痴、唖《おし》、……それを一言でも口に出して言って、二人で肯定し合うのは、あまりに悲惨だからである。母は時々、この子を固く抱きしめる。父はしばしば発作的に、この子を抱いて川に飛び込み死んでしまいたく思う。
「唖の次男を斬殺《ざんさつ》す。×日正午す
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