桜桃
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)目を挙《あ》ぐ。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
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われ、山にむかいて、目を挙《あ》ぐ。
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――詩篇、第百二十一。
[#ここで字下げ終わり]
子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ。少くとも、私の家庭においては、そうである。まさか、自分が老人になってから、子供に助けられ、世話になろうなどという図々しい虫《むし》のよい下心は、まったく持ち合わせてはいないけれども、この親は、その家庭において、常に子供たちのご機嫌《きげん》ばかり伺っている。子供、といっても、私のところの子供たちは、皆まだひどく幼い。長女は七歳、長男は四歳、次女は一歳である。それでも、既にそれぞれ、両親を圧倒し掛けている。父と母は、さながら子供たちの下男下女の趣きを呈しているのである。
夏、家族全部三畳間に集まり、大にぎやか、大混乱の夕食を
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