りに震えているようであった。
 私は、あわてて頬を固くし、真面目な口調に返り、
「僕なら、平気でやってのけるね。自己優越を感じている者だけが、真の道化をやれるんだ。そんな事で憤慨して、制服をたたき売るなんて、意味ないよ。ヒステリズムだ。どうにも仕様がないものだから、川へ飛びこんで泳ぎまわったりして、センチメンタルみたいじゃないか。」
「傍観者は、なんとでも言えるさ。僕には、出来ない。君は、嘘つきだ。」
 私は、むっとした。
「じゃ、これから君は、どうするつもりなんだい。わかり切った事じゃないか。いつまでも、川で泳いでいるつもりなのか。帰るより他は無いんだ。元の生活に帰り給え。僕は忠告する。君は、自分の幼い正義感に甘えているんだ。映画説明を、やるんだね。なんだい、たった一晩の屈辱じゃないか。堂々と、やるがいい。僕が代ってやってもいいくらいだ。」最後の一言がいけなかった。とんでも無い事になったのである。私は少年から、嘘つき、と言われ、奇妙に痛くて逆上し、あらぬ事まで口走り、のっぴきならなくなったのである。
「君に、出来るものか。」少年は、力弱く笑った。
「出来るとも。出来るよ。」とむきにな
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