した編輯者を、だいいちばんに失望させ、とにかく印刷所へ送られる。印刷所では、鷹《たか》のような眼をした熟練工が、なんの表情も無く、さっさと拙稿の活字を拾う。あの眼が、こわい。なんて下手くそな文章だ。嘘字だらけじゃないか、と思っているに違いない。ああ、印刷所では、私の無智の作品は、使い走りの小僧にまで、せせら笑われているのだ。ついに貴重な紙を、どっさり汚して印刷され、私の愚作は天が下かくれも無きものとして店頭にさらされる。批評家は之《これ》を読んで嘲笑し、読者は呆《あき》れる。愚作家その襤褸《らんる》の上に、更に一篇の醜作を附加し得た、というわけである。へまより出でて、へまに入るとは、まさに之《こ》の謂《い》いである。一つとしてよいところが無い。それを知っていながら、私は編輯者の腕力を恐れるあまりに、わななきつつ原稿在中の重い封筒を、うむと決意して、投函するのだ。ポストの底に、ことり、と幽かな音がする。それっきりである。その後の、悲惨な気持は、比類が無い。
私はその日も、私の見事な一篇の醜作を、駅の前のポストに投函し、急に生きている事がいやになり、懐手《ふところで》して首をうなだれ、足
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