めんどうな事もあるでしょうし、ちょっと大儀がるかも知れません。そこは北さんから一つ、女房に説いてやって下さい。私から言ったんじゃ、あいつは愚図々々いうにきまっていますから。」私は妻を部屋へ呼んだ。
 けれども結果は案外であった。北さんが、妻へ母の重態を告げて、ひとめ園子さんを、などと言っているうちに妻は、ぺたりと畳に両手をついて、
「よろしく、お願い致します。」と言った。
 北さんは私のほうに向き直って、
「いつになさいますか?」
 二十七日、という事にきまった。その日は、十月二十日だった。
 それから一週間、妻は仕度《したく》にてんてこ舞いの様子であった。妻の里から妹が手伝いに来た。どうしても、あたらしく買わなければならぬものも色々あった。私は、ほとんど破産しかけた。園子だけは、何も知らずに、家中をヨチヨチ歩きまわっていた。
 二十七日十九時、上野発急行列車。満員だった。私たちは原町まで、五時間ほど立ったままだった。
 ハハイヨイヨワルシ」ダザイイツコクモハヤクオイデマツ」ナカバタ
 北さんは、そんな電報を私に見せた。一足さきに故郷へ帰っていた中畑さんから、けさ北さんの許《もと》に来
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