しょう》に仕事をしたくなった。なんのわけだかわからない。よし、やろう。一途《いちず》に、そんな気持だった。
嫂が私たちをさがしに来た。
「まあ、こんなところに!」明るい驚きの声を挙《あ》げて、「ごはんですよ。美知子さんも、一緒にどうぞ。」嫂はもう、私たちに対して何の警戒心も抱《いだ》いていない様子だった。私にはそれが、ひどくたのもしく思われた。なんでもこの人に相談したら、間違いが無いのではあるまいかと思った。
母屋《おもや》の仏間に案内された。床の間を背にして、五所川原の先生(叔母の養子)それから北さん、中畑さん、それに向い合って、長兄、次兄、私、美知子と七人だけの座席が設けられていた。
「速達が行きちがいになりまして。」私は次兄の顔を見るなり、思わずそれを言ってしまった。次兄は、ちょっと首肯《うなず》いた。
北さんは元気が無かった。浮かぬ顔をしていた。酒席にあっては、いつも賑《にぎ》やかな人であるだけに、その夜の浮かぬ顔つきは目立った。やっぱり何かあったのだな、と私は確信した。
それでも、五所川原の先生が、少し酔ってはしゃいでくれたので、座敷は割に陽気だった。私は腕をのばして
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